吐く息の白い冬。 前だけを向いて足早に帰路を歩くサラリーマン。 2人寄り添いながらイルミネーションを見て頬を綻ばすカップル。 色とりどりの光に包まれた街は、白が降り注ぐ世界は、全てを。 醒めない夢を、見ている。
―12月24日PM10:00 「あ・・・ 雪降ってきた。すごいね!!ドラマみたいだ。ホワイトクリスマスだよアスラン!!」 美しいイルミネーションの下にある椅子に座り、キラはハラハラと降る雪を見上げた。 だが、名前を呼ばれた藍色の彼からの返事はない。 キラの肩に頭を預けるようにして、隣に座っている。 「・・・寝ちゃったのー?もー・・・」 ため息をついて、アスランの頬を悪戯に抓ってみた。 それでも、起きる気配はない。 「もう!!熟睡しすぎ!!仕方ないなぁ・・・」 柔らかい宵闇の髪に僅かに積もった雪を払って。 ゆっくりと膝枕の形になるようにして、そのまま眠らせてあげた。 あちこちで輝く明るい光は、一定間隔に舞い降りる雪でぼやけて見える。 その美しい光景をぼんやりと見つめながら、膝の上の愛しい彼の頬に触れた。 「ほら・・・こんなに冷たくなっちゃって!!カウントダウンまでには起きてよ・・・?」 優しく問いかけると、そのままかがんで額にキスを落とした。 今にも儚く消えてしまいそうな、微笑みを浮かべて。 ―12月24日PM9:30 バタバタと忙しなく向かってくる足音に、ラクスは顔を上げた。 すぐさま開くドア。 そこに立っていたのはオーブの国家元首であり、愛しい彼の片割れでもある少女 「カガリさん・・・どうなされたんですか? 今は・・・なるべくお静かに・・・」 「・・・!!そんな場合じゃないんだっ!!キラが・・・!!」 「キラ」と、言葉を発しただけで涙目になる彼女を見て、唯事ではないと瞬時に悟る 「キラが・・・どうしたのですか?! におられるはずじゃ・・・」 「それが・・・さっきキラがいなくなったと連絡が入って・・・それに、それに が!!」 「 が・・・!?」 口に細い手をあて、目を見開く。 それでも次の瞬間には、頭の中でどんな判断を下せば良いのかと冷静になってしまう。 だがこの衝撃は強すぎた。声が、震える。 「い、イザークさん達に連絡をとって・・・一緒に探して頂きましょう。私達だけではきっと無理ですわ・・・」 いつもの彼女にはない弱気な言葉に、カガリもさらに追い討ちをかけられるように気分が沈む。 「あ、あぁ・・・。でも、どうして・・・」 ざっくばらんな金髪をくしゃくしゃに掻き揚げて、虫の鳴くような声で呟いた 今日は、誰もが幸せな一日を過ごすクリスマスなのに。 ―12月24日PM11:20 「ねぇ・・・アスラン、そろそろ起きてよ。僕もう飽きちゃったよ?」 彼の首に巻かれているマフラーを指で弄びながら。 流石にクリスマスイブの夜。辺りにはイルミネーションの下で過ごすカップルの姿が増えた 相変わらず降り続ける雪は、コンクリートに染みを作っては消えて。 「雪、積もればいいのに・・・」 白く白く、全てを埋め尽くしてしまえばいい。 そこを歩いた人々の足跡も、汚れも、どんどんと降り注いで、また消してしまえばいい。 全てを、白く染め上げてしまえばいい。 ―12月24日11:40 「いたかっ?!」 「いや、こっちには・・・」 街の光に反射して、負けない輝きを出す銀髪と金髪 ラクスの泣きそうな声で「キラを探して」を言われたのはもう1時間以上は前のこと 自宅で連絡を受けたイザークは、急ぎディアッカに連絡をして2人で街中を駆け巡った 「ここにもいないなら・・・あそこか?」 「あぁ・・・行ってみようぜ」 息を切らせながら、白い世界を走り出す 雪が積もり始めた地面に、足跡を残しながら ―12月24日同刻 足元を見ると地面が白く染まっている。 キラキラと、雪の結晶が輝いた。 「あ、積もり始めた!!ねぇアスラン、うっすらとだけど雪積もってるよ!!」 椅子にも積もっている雪を掬い上げると、未だ膝の上に頭を乗せているアスランの顔に溢れて落ちた 「あ、ごめん!!冷たかった?!」 焦って雪を掃う。 その雪は、融けて水になることもなく。 「わーー!!やっぱり冷たい!」 手袋もつけていないキラの手は、真っ赤になってしまいもう感覚もない。 吐く息で手を温め、アスランの手を握った。 「ねぇ、アスラン。僕今すごく幸せだよ?だって、こんな風に君とクリスマスを過ごせるなんて思ってなかったもん。」 自分より冷たい彼の手を握り締め、瞳を瞑って微笑んだ。 そう、本当ならば自分はベッドの上にいなければならないのだから。 「キラっ!!!!!!」 その時、名前を叫ばれて、その声のした方を向く。 そこには必死の形相でこちらに走ってくる大切な友人。 「あ、イザークとディアッカ。」 あっという間に自分の近くまできた2人に微笑む。 「ねぇ、アスラン起こすの手伝ってよ。折角のクリスマスなのにアスランてばずっと寝てるんだよ?」 少し拗ねたような、それでも彼への愛しさを隠しきれない顔でこっちを見るキラに、呆然とする。 「ディアッカ・・・2人に連絡を。」 イザークの声で、キラを見つめたまま唖然としていたディアッカは我に返り携帯を取り出した 「あ!!そうだ!!!!イザークが怒ってくれればアスラン起きるよ!!いくら僕が怒っても起きないんだもんー」 膝の上で目を閉じたまま動かないアスラン、彼は寝ているだけだと信じきっているキラ。 あまりにも残酷で、背負い込めない現実。 返す言葉も見つからなくて。いや、言葉を発せられなくて。 下を向いたまま、その場に立ち尽くした。 痛いほど握り締めた拳に、血が滲んでも。 「イザークさんっ!!キラ!!!!!」 近くにいたのか、ほんの数分で来たラクスとカガリ。 カガリの目にはキラを見つけた安心感でか涙が滲んでいる。 「カガリにラクスまで・・・ 皆どうしたの?」 きょとんとした表情で訊ねるキラに、駆け出そうとしたカガリをラクスがとめる 「キラ・・・ どうして此処に?そして・・・アスランを・・・」 「どうして、ってアスランと約束したんだよ。クリスマスイブは此処でカウントダウンしようって」 にこりと笑うその笑顔は変わらないのに、何かがおかしくなってしまったキラ。 言葉に詰まる。今の彼にまたこの悲しい現実を聞かせたらどうなってしまうのだろうか。 「キ・・・ラ・・・・・・。アスランは・・・もう・・・」 わっ、と泣き出すカガリ。目を背け、下を向くイザークとディアッカ。 愛しい人を腕に虚空を見つめる彼に、この声は届くのか。 「アスランは・・・」 クリスマスってキリストが生まれた日なんでしょう?神様って残酷だね。」 「・・・・・大丈夫だよキラ。クリスマスを過ぎたって生きれる。」 「・・・何で?」 「・・・きっと、神様がプレゼントをくれるよ。」 「はは、なにそれ。アスランには似合わない台詞だね。」 「失礼だな。」 「だって・・・ねぇ?」 「とにかく。クリスマスは外で過ごそう。ちゃんと許可を貰うから。キレイなイルミネーションのある場所を見つけたんだ。」 「ずっと2人で、いよう。」 「アスランは・・・あなたを生かすために自分の心臓を移植しました。そしてあなたの心臓をアスランへ。 類を見ない移植手術でした。 2人ともが成功する確率は0に等しい。もし成功してもアスランは・・・。 それでもあの人は希望したのです。あなたを・・・助けるために。」 「嘘・・・だ。アスランっ!どうしてっ!!!!」 「キラさん、落ち着いてください!!まだ安静に・・・」 「離せ!!離せぇ!!!アスランをどこに隠したの?!ねぇっ!!・・・何で、何でそばにいてくれないのぉ!!!!!!!」 「嘘つきぃっ!!!」 「嘘・・・だよ。だってアスランと約束したもん。ここで過ごす、って。」 あの人は言ってくれた。だから自分はこうやって生きている。 アスランと一緒に、このイルミネーションの下にいる。 「キラ、思い出してください・・・ アスランは、心臓を」 「うるさいっっっっ!!!」 ラクスの心痛な声を遮ってキラは怒鳴る その剣幕に皆静まり返り、頭を抱えて小さく呟くキラの声だけが残った 「だって、だってアスランは約束してくれたもん。クリスマスは2人きりで此処で過ごすんだ、って。僕はクリスマスを過ぎたってアスランのそばで生きれるって!!!」 「キ・・ラ・・・・・・」 約束した、と壊れたかのように繰り返すキラ。 彼に触れようと、ラクスは手を伸ばした。 それでも、近づけない何かが、キラとアスランの間にはある。 「あぁもう!!頭・・・いたっ・・・!!」 頭を抑えたまま、何かを払拭するように乱暴に振る ヒステリーを起こしたかのように今までとは違う態度のキラがあまりに痛々しくて、誰もが何も言えなかった 「ねぇ、ねぇそうでしょアスラン!!早く起きてよ!!目覚ましてよぉ!!!!!」 彼の肩を掴んで、ガクガクと揺さぶる 目を覚ます気配もなく、ただ彼の体に降り積もった雪だけが落ちた。 「アス・・・ラ・・・」 触れる頬に熱はなくて。 穏やかに目を閉じたままの彼は、もう二度とその新緑を開くことはない。 コホコホと、キラは4人には聞こえない咳をした あぁ、そうか・・・ 「っキラ、認めろ・・・!!アスランは・・・っ、もう死んだんだ!!!!!」 自分の双子の姉の叫びに、キラはゆっくりと顔を上げ そして、微笑む 「アスラン。ほら、もうすぐ0時だよ。カウントダウンしなきゃね?」 涙を流したまま、キラは膝の上のアスランを抱き上げた その紫はもうアスランしか映さない。彼の髪の色と同じ夜空と、落ちてくる白しか。 時計の秒針が12に近づく。 一秒、一秒と。 「―3、―2、―1。」 メリークリスマス、 街の電光掲示板に輝かしく光る文字を見つめ、キラはため息を吐いた 「あーぁ、結局最後まで起きてくれなかったね、アスラっ・・・」 言葉の途中で、激しく咳き込む。 押さえた手の間から、赤が滑り落ちた。 「キラ?!」 降り積もった雪に落ちた赤。 その赤の理由を、皆痛いほど理解していた。 「早く!!病院へ!!・・・っ?ラクス様?!」 すぐさま反応したイザークを、ラクスは泣きそうな顔で止めた。 もう、遅いのだ。 ―大変残念なのですが、手術は・・・・・・ ―そう、ですか・・・ 「あぁ・・・、なんだか僕も眠くなってきちゃった。」 咳き込み続けた所為で溢れた血は、キラの足元を赤く染めた それでも、空から降る雪はその赤を覆う。 「アスラン、嘘つきなんて言ってごめんね?君はずっと一緒にいてくれたんだよね。そして、これからも。」 静かに脈打つ心臓と、アスランを一緒に抱きしめた 長時間冬の空の下にいた所為で、キラの体温は極限状態まで下がっていた それでも温かいのは何故だろう。 「今眠ったら君と同じ夢が見れるかな。」 「ねぇ?2人、で・・・」 醒めない夢を、いつまでも。 「おやすみ、アスラン」 白く埋め尽くしてしまえばいい。 そこにある汚れも、赤い赤い涙のような血も。 何もなかったように、白く染め上げてしまえばいい。 醒めない夢の中の2人だけの完結した世界で。 FIN...? − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − いいわけ。反転してください。 やっと書き上げました・・・。 はっきり言って不完全燃焼です。時間に押されて書き上げる作品はなんとも納得いけるものが書きませんね; ギャラリに移す際に加筆修正するかもしれません。 なんだかとてつもなく意味不明な作品ですみません; ラクスとカガリの会話の中に出てくる空欄の中には何か言葉が入ります。 読み終わった後なら想像がつくかと。 そしてキラはこの雪の中で息を引き取ります。 アスランを抱きしめたまま。 クリスマス小説で2人とも殺してしまうなんて・・・!!ひぃ罰当たり!!爆 あー本当に不完全燃焼だ・・・自分の文才のなさが悔しい・・・!!涙 12月28日 未森 2月22日 ギャラリにUP |